接着歯科技術

「歯医者さんに行くと、健康な歯まで大きく削られるのでは…?」
そう不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、当院が目指すのは、皆さまのそんなご心配を解消し、ご自身の歯を最大限に活かし、永く健康に保つための治療です。
その中心となるのが、「低侵襲の接着歯科治療」です。
日本では、日用品から建築まで、様々な分野で「接着技術」が非常に発達しています。
瞬間接着剤やセメダインなど、その性能の高さは世界でもトップクラスです。実は、歯科医療の分野においても、この「接着」の技術はめざましい進化を遂げています。
しかし、お口の中は常に湿っており、唾液や温度変化、そして毎日の食事による負荷など、接着剤にとっては非常に厳しい環境です。
そのため、高い接着力を維持することは、歯科医療における長年の課題でした。
私は、開院当初からこの「接着」の可能性に着目し、患者さまの大切な歯をできる限り削らずに残すために、接着歯学という専門分野の学会にすぐに入会し、集中的に学びを深めてきました。
低侵襲の接着歯科治療とは?〜歯を「削らない」という選択〜
歯を「守る」ための治療哲学

当院の核となる治療方針は、一貫して「低侵襲治療」です。
これは、単に「削らない」というだけではなく、「必要な治療を、患者さまの身体や歯への負担が最も少ない方法で行う」という、極めて患者さま志向の考え方です。
そして、この低侵襲治療を具現化する上で、不可欠なのが「接着歯学」です。
接着歯学とは、特殊な歯科用接着剤を用いて、修復物(詰め物や被せ物)を歯質に強固に接着させることで、健康な歯を不必要に削ることなく、歯そのものの強度を回復させ、長持ちさせることを目指す学問であり、技術です。
従来の治療との大きな違い:合着と接着
これまでの歯科治療では、詰め物や被せ物を歯に固定する際に、主に「合着(ごうちゃく)」という方法が用いられてきました。
合着(従来の治療)
合着とは、セメント(歯科用接着剤とは異なる、固まる材料)を用いて、詰め物や被せ物を歯の形にはめ込み、機械的にくっつける方法です。
例えるなら、ブロックとブロックをセメントでただくっつけるようなイメージです。
この方法では、詰め物や被せ物が「外れないように」するために、健康な歯質を大きく削って、複雑な「形(アンダーカットなど)」を作り出す必要がありました。
これにより、一度削ってしまった歯は、元に戻すことができず、歯の寿命を縮めてしまう可能性がありました。
また、セメントと歯の間にはミクロな隙間が生じやすく、そこから細菌が侵入して再びむし歯になる「二次う蝕」のリスクも課題でした。
接着(ひろ歯科の低侵襲治療)
一方、接着歯学を応用した治療では、歯科用接着剤を用いて、修復物と歯質を化学的・分子レベルで強固に一体化させます。
これは、単に「くっつける」というよりも、歯の表面と接着剤が「融合する」に近いイメージです。
例えるなら、「コンクリートに鉄筋を埋め込み、一体の構造物として強度を高める」ようなものです。
歯の表面は、目には見えませんが、無数のごく小さな凹凸や、象牙細管と呼ばれる微細な管が存在しています。
歯科用接着剤は、この歯の表面を特殊な処理(エッチング、プライマー処理など)で整え、接着剤の成分が歯の組織の奥深く、ミクロなレベルで入り込み、化学的に結合します。
接着歯学がもたらす具体的なメリット
ひろ歯科の接着歯学を応用した低侵襲治療は、患者さまに多くの具体的なメリットをもたらします。
歯の寿命を延ばし、ご自身の歯を長く使える
接着技術により、むし歯の治療で削る範囲を最小限に抑え、健康な歯質を最大限に残すことができます。
これにより、歯の構造的な強度を維持しやすくなり、ご自身の歯が長持ちする可能性が飛躍的に高まります。
一度削った歯は元に戻りません。だからこそ、当院は「できるだけ削らない」ことにこだわり、患者さまの歯の寿命を延ばすことに貢献します。
二次う蝕(治療後のむし歯)のリスクを低減

歯と修復物(詰め物や被せ物)の間に隙間があると、そこから細菌が侵入し、再びむし歯になってしまう「二次う蝕」のリスクが高まります。
接着歯学では、この隙間を限りなくゼロに近づけることで、二次う蝕の発生を強力に防ぎます。
これにより、再治療の必要性が減り、患者さまの負担も軽減されます。
審美性の向上と自然な仕上がり

接着技術は、天然歯に近い色調を持つレジン(プラスチック)やセラミックなどの材料を、歯に直接、そして精密に接着することを可能にします。
これにより、治療した部分が目立たず、まるでご自身の歯のような自然で美しい仕上がりを実現できます。
特に前歯など、見た目が気になる部分の治療において、その効果は顕著です。
歯の強度を補強し、破折リスクを軽減
むし歯で削られたり、過去の治療で詰め物をしている歯は、その部分から割れやすくなることがあります。
接着歯学では、接着剤が歯の残った部分を補強し、歯全体の強度を高める効果があります。
これにより、歯ぎしりや食いしばりによる歯の破折(割れること)のリスクを軽減し、歯の寿命を延ばすことに貢献します。
知覚過敏の軽減

むし歯治療後や、歯ぐきが下がって歯の根元が露出した際に、冷たいものなどがしみる「知覚過敏」が起こることがあります。
接着技術を用いて、歯の表面にある小さな穴(象牙細管)を封鎖することで、知覚過敏の症状を軽減できます。
MTAセメントによる「神経を抜かない」治療

虫歯が深く、歯の神経に近い場合、従来は神経を抜く(根管治療)必要がありました。
しかし、当院では、MTAセメントという生体親和性の高い特殊なセメントを用いた神経保存治療を積極的に行っています。
これは、接着歯学の概念に基づき、神経を保護し、歯の活力を維持したまま歯を残すことを目指すもので、歯の寿命を延ばす上で非常に重要な治療法です。
MI治療とレーザーの融合〜接着歯学でブラッシュアップされた最先端歯科医療〜
私が接着歯学に深く傾倒していった背景には、MI(Minimal Intervention:最小限の介入)治療への強い興味がありました。
MI治療とは、できるだけ歯を削らず、歯の寿命を延ばすことを目的とした治療概念です。
接着歯学は、まさにこのMI治療を実現するための核となる技術であり、私にとって非常に魅力的でした。
患者さまの歯を安易に削るのではなく、ご自身の歯を大切にする。 このMI治療の理念を実践していく中で、私はさらに治療の精度と効果を高めるために、様々な技術を模索していました。
レーザー治療との運命的な出会いと融合

その中で出会ったのが、歯科用レーザーです。
レーザー治療は、その殺菌・止血・治癒促進効果だけでなく、歯質を優しく蒸散させ、精密に形を整えることができる特性を持っていました。
「これだ!」と直感した私は、すぐにレーザー治療の研鑽も積むようになりました。
そして、接着歯学で培った精密な歯面処理の知識と、レーザーの優れた特性を組み合わせることで、低侵襲治療はさらにブラッシュアップされると確信しました。
例えば、虫歯をレーザーで最小限に除去した後、接着処理を行う前にレーザーで歯面を滅菌・乾燥させることで、接着剤がより強固に、そしてより長期間にわたって歯質に結合するようになりました。
これにより、詰め物の隙間からの細菌の侵入を防ぎ、二次的な虫歯の発生リスクを大幅に低減できるようになりました。
このように、ひろ歯科では、接着歯学とレーザー治療を融合させることで、それぞれの技術のメリットを最大限に引き出し、患者さまにとって「最善」の低侵襲治療を提供しています。
接着歯学のプロフェッショナルとして〜知識の共有と歯科医療の発展〜

私は、ひろ歯科の院長として、日々の臨床で患者さまの歯の健康を守ることに全力を尽くしています。
それと同時に、接着歯学の最新の知見や技術を学び、また私自身の臨床経験を他の歯科医師の先生方と共有することにも力を入れています。
学会での発表や、他の歯科医師の先生方へのセミナー開催を通じて、接着歯学の重要性や具体的な治療技術を伝達することで、日本の歯科医療全体の質の向上に貢献したいと考えています。
これは、私一人でできることには限りがあるという思いからです。
より多くの歯科医師が低侵襲の接着歯科治療を実践できるようになれば、それだけ多くの患者さまが、ご自身の歯を永く健康に使い続けることができるようになるはずです。